「同じ空の下で…」

「おお、准一君。早速来たのか。まぁ、掛けなさい。」

悠長な口調で話す常務とは対照的に、私はただただ、そこに居る高梨の顔を見上げるだけだった。

「こんにちは、艶香さん。」

「…ど、どうも。ど、どうしたんですか?今、丁度…スケジュール調整を…」

笑顔からまるでキラキラとした粉が零れ落ちているような…人を惹きつける表情…。

好きの感情なんて一切持って居ない私ですら、変に意識してしまい、慌てる様にすかさず目線を逸らした。

「お手間を取らせてスイマセン。近くまで来たもので。」

少しだけ、近づく彼の顔を直視出来ない。

意識しないようにすればするほど、その存在感を意識してしまい、すぐにでもこの場から逃げ去りたい気分で一杯だった。

「…お、お茶入れて参り…マス。せ、席を外します。」

慌てる様に常務室から出て、部屋の外で数回、深呼吸をした。


突然の来訪なんて…反則だ。

心の準備とか…必要なのに。


給湯室まで歩き続けながら、うかつにも、あの雨の日に、彼に握られた手の体温を思い出す。
その時の感触とかが、生々しい程にリアルに蘇って…────。

私は、目を瞑りその記憶を一生懸命にかき消そうと試みた。


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