Storm -ただ "あなた" のもとへ-

「手だって、どうにか腐らずに済みそうだし」

「ああ。
 やはり元のとは相性がいいな。
 生きがよかったしな。
 ちゃんとリハビリはやるように。
 すぐに元通りには動かない」


綺樹はちょっと安心して微笑した。

フェリックスは前と変わらなかった。

綺樹の視力と聴力が戻るにつれ、触れ合いは少なくなっていっていた。

最初にキスが無くなり、そして添い寝が無くなった。

今は以前のように、冷ややかで皮肉屋な当主補佐だ。

その方がやり易くてありがたかった。

肌で感じていたような優しさと思いやりが具現化していたら、元に戻ってきた綺樹はどう振舞っていいのかわからなかった。


「さて、じゃあ大人しくしていろよ」


朝の検診を終え、フェリックスは仕事をしに行こうとしていた。


「いつでも大人しいじゃないか」

「寝言は寝て言え」


捨て台詞を残してドアが閉まった。
< 142 / 448 >

この作品をシェア

pagetop