Storm -ただ "あなた" のもとへ-
5.闇の中へ

  *

結局、深みにまた一段、はまっただけ。

窓辺のソファーの上に、綺樹は投げ出された人形のようにいた。

瞼を半分伏せ、視線は外にあった。

夜の色が、群青に墨を落とした色へと変わっていく。

空気はほどよい重さだ。

もう少しで朝が始まる。

だがウルゴイティ家のペントハウスから見える限り、NYの街はまだ眠っていた。

確かめるだけ、の積りだったのに。

歯の間に挟んでいた煙草から灰が落ちた。

恨まれていないか。

憎まれていないか。

やはり確かめるべきではなかった。

会ったら最後だ。

わかっていたのに。

遥か下で、車のクラクションの音が鳴り響く。

だがまだ朝は来ない。

重さのある空気がとろりと再び満ちた。

確かめに行ったというのに、最後、本心を見るのが怖くて、視線を外してしまった。

“またな”、そして、ナイトテーブルに置いてあった、チェーンにつながった二つの指輪。

煙草の灰がまた落ちて、服の上で散る。

綺樹はやっと指に煙草を移した。
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