君の声を聞きたくて

「梨華知ってるー！？」

中休みのチャイムとともにパタパタとやってきたのは親友の坂口明美。
低血圧気味なあたしは大きく伸びをして明美の方を向いて『何？』と聞いた。
明美はそそくさあたしの隣に来て、あたしの耳元に顔を近づけて言った。


「田中って彼女いるらしーよ？」


『へ！？嘘！？だれっ！？』


「3組の柿沼洋子だって！！」


・・・・・・・は？柿沼洋子？
何で！？何で、田中が柿沼洋子なんかと！？
信じられない！？大体、何で柿沼なの？
胸の辺りが重くなる。


そんな気持ちのまま社会の授業が始まった。
あたしはこっそり田中の方を見た。
眼鏡をかけて、頬杖をつく田中を見てため息をつく。


「何、人の顔みてため息ついてんだよっ。」


『えっ！？色々とねー…。』


「どうしたん？」


『田中、彼女いるって本当？』


思わず聞いてしまった。
聞いた後で、『しまった。』と思った。
そして、一瞬だけど田中の顔が曇った。
本当なんだ…。


「あー…、彼女ねぇ…もう終わったようなもんよ。」


へ？終わった？


『え、それってどうｙ―――』


「田中と小柳！さっきからうるさいぞーっ。」


担任の大きな声にあたしの声はかき消された。
周りのクスクスと笑う声。
田中と顔を見合わせて小さく笑った。
担任もわざとため息をついて授業に戻った。


「まぁ、いいじゃん？ちょっと色々あったんだよ。」


田中は黒板を見ながら、寂しそうな目をして言った。
まるで自分を励ますように。
そんな田中を見て、これ以上詮索するのをやめた。
本当は、「柿沼さんなんでしょ？」、「田中が告白したの？」、「付き合ってどの位？」
って聞いてみたかったけど、田中を傷つけてしまう気がしたからやめた。
そんな姿を見たくないから。
もっといっぱい、いっぱい田中に聞きたかった。
何でだろう？



ただの隣の席のクラスメートなのにね。