月下の幻影


 月海はハッとして目を見開くと動きを止めた。


「私は君の実力を見るのが目的だったんだけど。だから君が実力を出し切る前に、全力で打ち負かすわけにはいかなかったんだよ」


 元々、自分の腕を見極めて欲しいと手合わせを申し出たことを月海はすっかり忘れていた。
 見当違いなことで和成を非難したのが途端に恥ずかしくなり、月海は赤くなって和成に深々と頭を下げた。


「申し訳ありませんでした。ご無礼をお許し下さい」


 少しして身体を起こすと、月海は俯いたまま和成に問いかけた。


「私は護衛失格ですよね」
「いや、合格だよ」


 弾かれたように顔を上げて見つめると、和成はにっこりと微笑んだ。
 少年のように無邪気な笑顔が月海の神経を逆なでする。

< 20 / 63 >

この作品をシェア

pagetop