月下の幻影


 翌朝、塔矢が執務室の戸を開けると、待ち構えたように和成が願い出た。


「塔矢殿、月海を私に下さい」


 塔矢は、和成がこれまで見た事がないほど驚愕の表情を浮かべると、思い切り動揺してしどろもどろに問いかけた。


「お、おまえ、あいつを受け入れたのか? 紗也様はもういいのか?」


 これほどうろたえた塔矢を見る事は二度とないかもしれない。
 和成はクスリと笑うと意地悪く言う。


「裸で逆立ちするそうですね」
「あいつは見たくないと言ってたぞ」


 笑顔を引きつらせながら抵抗する塔矢はおもしろかったが、そろそろ本題に入る事にする。

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