攫われる花嫁

「俺の花嫁を攫いに来た」


左腕を高く上げた男の手には、テレビとか本でしか見たことのない物が握られていた。
自衛隊とか、戦争の時に使う道具。


「しゅ、りゅうだん?」

「Yaaaaahaaaaa!」


意味のわからない奇声を上げた男は、だんっと強く足を踏み出した。
騒然とする会場。
男性陣が男を取り押さえるために、駆け出すが、ヒラリひらりと避けられている。それは、まるで蝶のようだ。


「や、だ・・・」


幸せになれると、そう思っていたのに。
この式が終わったら、幸せな家庭を作って、愛する彼が仕事から帰ってきたら「お風呂にする?ご飯にする?」なんて定番な事を聞いてみたい。
子どもも欲しい。ママって呼ばれて抱きついてきたら、幸せすぎて死んでしまうかもしれない。

これから、わたしの幸せは始まるのに。
それなのに、この男はこの式をめちゃくちゃにしたいのだろうか。
わたしの知り合いではない。
もしかしたら、彼の知り合いなのかもしれないが、こんな余興は知らないし、いらない。


「俺の花嫁。迎えにきたよ」


思考が飛んでいたせいで、男が目の前まできていたことに気づいてなかった。
わたしの前でかしづいた男は、優しい動作で手を取ってくる。


「触るな。貴様、誰だ」


彼が強く手を叩き落とす。


「俺?俺様はねー。サラの旦那になる男だよ」


ねぇー、と同意を求められる。
戸惑って彼を見ると、わたしのほうは見ていなくて男を睨みつけている。


「わ、たしは貴方なんて知りません!式をめちゃくちゃにしないでください!」

「サラ。お前は俺の花嫁なんだ。俺と式を上げるべきだ」


男はニヤリと笑ってわたしを抱き上げた。自然な流れて横抱きにし、扉に向かって走り出す。

やだ。連れてかれちゃう。


「ーー!!助けて!」


わたしは必死に彼に手を伸ばした。



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