あの日、あの夜、プールサイドで

◇サヨナラ、コウにいちゃん



次の日の朝。



俺はいつものように朝5時に起きて、暗くて淋しい食堂で静枝さんの作ってくれた朝御飯を食べていた。


「ゆっくり噛んでいっぱい食べるんですよ?光太郎。」

「わかってるって。
静枝さんは過保護だなぁ。」

「あら。
私の方針はいっぱい甘えて育てることですから、光太郎がそう思うなら子育ては成功してると言えますねぇ。」

「あはは!呑気なんだから。」


愛児園の食事は基本的には炊事場担当の職員、数名が作る。



そりゃそうだよな。
二十人弱の子ども達が一斉にご飯を食べるんだから、静枝さん一人がまかなえる量じゃない。



愛児園の朝御飯の時間は朝7時。
6時ごろ職員の人が来てご飯を作ってくれるんだけど…6時に家を出て朝練に行く俺は、食べられる時間じゃない。


高校入学に当たって、朝御飯をどうするかで悩んでいたら


『光太郎のご飯くらい、私が作りますよ。』


静枝さんはこんな提案を俺にしてくれた。




『親子水入らずの時間が毎朝とれるなら、私は幸せだし…。これぐらいしか私は光太郎にしてあげられませんから。』



その言葉通り
静枝さんは毎日の業務で疲れているにもかかわらず、毎朝4時半に起きて俺の朝食と弁当を作ってくれている。



夕ご飯は職員の人が作ってくれたご飯にラップして、一人でチンして食べる。だけど朝は静枝さんと二人でゆっくりと幸せな時間を過ごすことが出来る。


ちょっとマザコンかもしれないけどさ??
この時間は静枝さんを独り占めできる唯一の時間だから、俺にとって特別な時間。ちょっと優越感を感じる時間でもあるんだ。


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