あの日、あの夜、プールサイドで


俺はフッと笑ってテーブルの上に置かれた伝票をサッと手にすると


「じゃぁね、ジュン。
また頼むよ。」


彼を振り返ることなくレジに進み、会計を済ませ、コートを羽織って外に出た。



「さむ……。」



2月の風は頬を切り裂くほど冷たい。
指先はあっと言う間に冷たくなって、暖房で温まった体があっという間に冷えていく。



ビュウビュウと耳の近くで鳴る、風鳴りを聞きながら俺はこれでいいんだ、と自分に言い聞かせた。




勝つためには
手段は選ばない


正義は勝つ
ではなく
勝ったものが正義となる。


愛は信じない
運なんてもっと信じないし
神様なんてこの世にいない



俺が信じるのは
自分自身の力だけ


他人はすぐに自分を裏切る



俺は誰も信じない――……



そう。
それが俺の生きる道なのだから。





青い空に白い雲
うだるような暑さに
愛する人、守るべき小さな命と共に
幸せな毎日を過ごしていた吉良光太郎はどこにもいない。



幸せな笑顔を振りまいて
寧々とと無邪気に縁側でプリンを食べて
愛する人に見守られて
ささやかだけど幸せだった吉良光太郎は
あの日、あの夜、死んだんだ。



寒さに凍えるカラダをピンと伸ばして
俺は青く澄んだ、空を見上げる。



冬の空はどこまでも澄んでいて、
透明感があって美しい。



そんな空を見上げながら、俺はジュンからもらった茶封筒をギュッと握りしめる。



間違えててもいい

醜くても

卑怯でも構わない。



俺は……こういう風にしか、生きられない。




寒い寒い空の下。
凍えるような冷たさを頬に感じながら
俺は切り裂くような風の中、藤堂の待つ帝都体育大学に向かってゆっくり歩きだしたのだった。



【Fin】
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