あの日、あの夜、プールサイドで

◆見えない時間



身が切り裂かれるような寒さの外気とは違って、暖かいストーブで温められた室内はとても柔らかな暖かさに包まれている。


園長先生に勧められるまま、園長先生にある来客用のソファーに真彩と二人、並んで腰掛ける。



目の前にある昔ながらの石油ストーブの上には大きなやかんが乗せられていて、白い蒸気を元気よく吐き出していた。



ーーあったかい。



昔懐かしい冬の風景に想いを馳せていると



「ごめんなさいね。私、暖房の空気がどうもダメで…。こんな古いストーブで申し訳ないんだけれど、寒くはないですか??」



紅茶の袋を持ったまま、園長先生が俺に尋ねる。



「あ、大丈夫です。
充分あったかいですよ。」



園長先生は俺の答えにニッコリと微笑むとストーブの上からやかんを外し、茶葉を入れたティーポットに湯気の立つ暖かいお湯を注ぎいれた。



お湯の中でまるで踊っているように少しずつ膨らんでいく、紅茶の葉っぱ。



真彩と二人でボーッとその光景を見つめていると


「あら、いけない。
傷の手当が先でしたね。」


園長先生は大きなデスクの引き出しから薬箱を取り出して


「真彩ちゃん。
月原先生の手当をお願いして構いませんか??」


真彩の手にそっと薬箱を置いたのだった。


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