水中少女(短編)
ぶくぶく
好きっていう想いは、重い。

「だから、あんたが、こんなに側にいるって不快だわ」
「僕は、あなたが好きですからー」

飯塚深春は、深い溜息をついた。深春は、べたべたと自分に触れ、好きだと言う彼、市原修太の事があまり好きじゃない。
高校二年生になった深春は授業の上手いサボり方を見つけて、度々屋上にいた。一人になれると喜んだのもつかの間、一学年下の修太に見つかってしまったのだ。

風が穏やかに吹いていて、そんなに寒くない。陽が照っているからだろうか。

「大体ね、一つ下にもかかわらず、サボってるなんて生意気なのよ。授業は?」
「それ言ったら、深春さんも同じじゃないっすか」
「深春さん呼びやめてよ。…この場所なら誰にも見つからないって思ったのに…!」
「神のお導きっすね。ジャスティス!素敵な深春さんに出逢えて、本気で嬉しいっす。付き合ってください」
「流れ作業みたいでときめかないわ」

もう一度深春は溜息をついた。

修太の黒というよりは茶色の色素のうすい髪が光に透けているようだ。

「そういえばね、私、クラスの男子に告られたの」

深春は、ぽそりと、修太の耳元で呟いた。
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