ツラの皮


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あの日俺は、仕事を兼ねた雑誌社企画のパーティーに出席し、朝帰りとなった。


電車に乗り込んで暫くして周囲のそこはかとない視線に気付いた。


この容姿のお陰で人の注視には慣れているものの、こんなある意味心配げにも取れる視線には覚えがない。



何だ?



その疑問は直ぐに解消されることとなった。




電車が緩いカーブに差し掛かったところで、いきなり隣の女が前のめりにのめった。




げっ!?




驚きもあったが、電車で豪快な前転などという奇異な光景を目撃したことはなく、ちょっと見てみたいという潜在意識も手伝って手が出なかった。



が、八十度ほど前に傾いたところで女は留まった。



次いでぐんと勢いよく上体を戻した。





残念


・・・という思いもあったが、

人事ながらに無様な転倒は免れ、我知らず詰めていた息を放った。







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