ツラの皮




怒り最骨頂の俺はトリケラトプスの雛みたいにギャーギャー煩い女を引き寄せ、素早く唇を重ねた。


会話が聞こえない距離ながらも周囲にはスタッフや役者陣がいて、コチラのやり取りに口笛や野次が乱れ飛んだ。



「ちょ、何すんのよ、バカ遠っ!」




赤い顔で飛び退いた鈴を俺は高飛車に上から見下ろしフンッと鼻で笑った。




「付き合ってんだから別にいいだろーが。」


「……へ?」


「昨日オマエは確かに俺と付き合うって言ってたぜ?」





実際には肝心の返事を聞き損ねたわけだが………。




「えっ?……うそっ、は?………マジ?」


「女に二言はないよな?ソレともなんだ酔っ払ってたからといって一旦した約束を反故にしようってか?」




挑発するように笑うと鈴はぐうっと言葉を詰まらせ、途端に偉そうに胸を張った。






「い、いいわよっ。望むところだわっ。私は腰抜けの誰かさんと違って恋愛から逃げも隠れもしないんだからねっ。」




何だって告白の返事が喧嘩腰だ、コイツは。





しかしまんまと引っかかりやがったな、単純な奴。


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