ツラの皮



着替えもしないまま、回れ右した私を「待って!」と聡クンが引きとめた。




「俺は祥子さんが好きだよ。上司として尊敬してるのと同じくらい女性として魅力的だと思ってる。まだ若輩者で守ってやるなんて立派なことは言えないけど精一杯大切にする。……鈴ちゃんは俺がお父さんじゃ嫌かな。」




小さく胸に痛み。




私は気取られないように無理矢理笑顔を造った。





「その話は追々。また日を改めて。私今から呑みに行かなきゃならないし。」




いやぁ、付合いはツライねとおどけると、聡クンはばつの悪そうな顔で「そか、ごめんね」と手を放してくれた。






逃げる体勢を整えた私の背に響いた母の涼やかな追い討ち。







「カレにヨロシクね。」





カレ?

カレって私のカレシ?








違う。








思い当たった私は肩越しに詰るような縋るような自分でも分からない視線をお母さんに向け、弾かれたように駆け出していた。


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