たとえ愛なんてなかったとしても
「......やれるだけ、やってみるって決めたんだ。

兄さん、昔みたいにたまにこうして、話したりできない?
アメリカの家には帰りたくないかもしれないけど、僕はまた兄さんと会いたいよ」



昔みたいになんて、無理に決まってる。
トニーは何も悪くない、悪くないが......。
俺の問題だ。


俺がテストで一位をとっても、何かで優秀な成績を残しても、両親はいつもトニーのことしか気にしていなかった。

トニーと同じくらいとは言わない。
せめてその十分の一でもいいから、俺のことも気にしてくれたら。

トニーさえいなかったら愛されるのは俺のはずだったのに、としだいに何の罪もないトニーを憎んでしまう自分が嫌だった。


だから、俺は家を出た。

無邪気に笑うトニーにも腹がたったが、それ以上に心の狭い自分が許せなかったから。
これ以上、トニーを憎みたくなかったから。



「......俺にはそんな気はない。

お前がどう思うが勝手だけど、俺とお前は元々血のつながりもない、赤の他人だ。
兄さんでも、何でもない。

仕事はともかく、プライベートでは一切関わる気はないから」



厳密に言えば、遠い親戚だから血のつながりはあるが、まあどうでもいいだろう。
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