Daddy Long ....

私は思わず声をかけた。
泣いている父を見て、自分の胸も苦しくなった。
どうすればいいのかわからなくて、それでも何かしたくて。

でも、それが間違いだった。

『お、おとうさん…』

小さい声だった。
それでも私の声に気付いた父は、振り向くと一瞬驚いた顔で私を見た。

そして表情は徐々に強張って、眉間にしわが寄っていった。涙は止まっていて、その顔からは悲しみではなく怒りが感じられる。
私は怖くなって一歩後ずさると、父は勢いよく立ちあがり足早に私に向かってきた。

私を見下ろした父は大きく手を振り上げ、私はそれを見上げた。

気付いた時には私は床に倒れていた。
ほほに強い痛みを感じて、驚いて父を見上げる。

『なんだよ、その目はよ。俺はなぁ、お前の…、お前なんかのためにこんなにくたくたになってまで…』

そう言う父は鬼のような形相をしていた。
あの頃の、母が居たころの父のあの笑顔とは程遠いものだった。
まるで誰か知らない人を見ているような気分だった。



それから私は何度となく、殴られるようになった。
父の機嫌が悪い時は、気が済むまで殴られた。

怖くて怖くて、
つらくてしょうがなかった。

だけどそれも、父の苦労を知っているから、だから責める気にはなれなかった。
私が耐えれば、それで父の気持が楽になるならそれでよかった。
私にはそんなことくらいしか結局できないのだから。



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