天使な悪魔
Violet
「連絡来ないんじゃないかって諦めてたよ。」


クロス型のピアス、紅い天然石の嵌められたシルバーの指輪。鶫さんはやっぱりお洒落だった。


来ないと思っていたのは私の方だった。夕方近くになり鶫さんが来店した時、直ぐに声をかけることが出来ず、私の方から思い切ってメールを入れ、仕事終わりに二人きりで会うことになった。


昨夜の事が無ければ、何も見てなければ今この瞬間も、只純粋に嬉しかったのに。


「今日はお話があって来ました。済んだら直ぐに帰ります。」


「ゆっくり過ごせると思ったのに残念だな。話って・・・?」


私だって本当は沢山話たいし、聞きたい事だってあるよ、だけど今は―・・・。


「小桃ちゃん、知ってますよね?」


「あぁ、あの子は以前から知り合いだよ。友達が昔からの知り合いだったから。」


胸の奥がちくりと痛んだ。やっぱりあの時一緒に居たのは鶫さんだったの?


「連絡が取れなくなっちゃってるんですけど何か知りませんか?」


「えっ?連絡取れてないの?」


メールもしてたんだ・・・仲良かったんだね。


「先日一緒に飲んでましたよね?○○通りの近くで。」


「見かけてたなら声掛けてくれれば良かったのに。そうだよ、仕事仲間交えて一緒に飲んでた。」


二人きりで飲んでたのにどうしてここで嘘を吐く必要があるんだろう?特別な存在だから、何か隠したいことでもあるのかな?


「ごめんなさい。やっぱり何も聞いてないですよね。わざわざ呼び出したりしてすみませんでした。お店では聞きにくかったので・・・これで失礼します。」


飲み残しのコーヒーを起き、席を立つ。


鶫さん、絶対に何か知ってる。だったら嘘なんか言わない。


「もう行っちゃうんだ。誰にでも優しいんだね、七瀬ちゃんは。こんなに親身になってあげるなんて。」


一秒も早くここから去ってしまいたかった。


誰にでも優しいのは貴方だよ、鶫さん・・・。
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