星月の君



「ずっと邸に閉じこもってばかりだったから……。でも、ごめんなさい」




 良い、と返した兄は立ち上がる。そのまま去ろうとして、とまった。




「若葉」

「はい」




 兄も私の身に何があったのかを知っている。だから、己の目の届く範囲に私を置いている。
 小雪が私の手に、己の手を重ねた。私がいます、とでもいうように。




「どうか忘れるな。私はお前の味方であるし、お前が嫌がるようなことはさせないつもりだ」



 着替えてくる。そう言い残して去った兄。

 昔からこの兄は優しいのだ。だからつい、甘えてしまう。兄も兄だ。本当に、私がこまってしまうくらい、兄は守ってくれているのだ。




「若葉さま」

「大丈夫よ」




 小雪の手を私はそっと握り、そう笑った。






  * * *




< 25 / 71 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop