ベストマリアージュ
この分だと仕事が長引いてるのかもしれない。


もし今からこっちに向かってたとしても9時半過ぎちゃうな……


カードキーを受け取り、エレベーターに乗り込むと、67階のボタンを押した。


周りはみんなカップルばかりで、一人きりの自分がなんだかみじめになる。


ほんとなら二人で歩くはずだった廊下を一人で歩きながら、私はまた何回目かの溜め息をついた。


部屋の前に着いて、持っていたカードキーで鍵を開け、憂鬱な気持ちでドアを押し開けた。


「わ……」


飛び込んできたのは大きな窓から見える素晴らしい夜景。


さっきまでの鬱々とした気分が嘘のように、その夜景に目を奪われる。


私のためにさとしが用意してくれた部屋なんだと思ったら、改めて嬉しくなった。


本当は二人で見たかったけど、仕事なんだから仕方がない。


ダブルベッドに腰を下ろして、正面のキラキラ光る夜景をしばらくぼんやり眺めていた。


ふいに携帯が鳴った気がして立ち上がる。


テーブルに置いた携帯は、ブルブルと震えていた。


慌てて携帯を掴み、ディスプレイを開くと、そこにはさとしの名前。


すぐに通話ボタンを押すと、勢いよく「もしもし?」と問いかけた。


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