月下の誓約


 大海に浮かぶ小さな島、「秋津島」の中央に位置する杉森国は、島の中で最も小さな国だ。

 四方を好戦的な大国に囲まれ、常に侵攻の危機にさらされている。

 特に目立った産業も資源も持たない国だが、島の中央という要衝を押さえているので、他国にしてみれば他に攻め込むのに邪魔でしょうがない。

 交渉によって取り込もうにも杉森国は拒否し続けてきた。
おまけに五年前から全ての国との国交を断絶し、もはや聞く耳持たぬ状態である。

 それというのも、五年前から杉森国には外交を行える者がいなかったからだ。

 現君主杉森紗也が、先代の急逝により即位した五年前には、わずか十三歳だった。

 外交に関する決定権は全て君主にある。だが当時の紗也にその判断力はなかった。
 そのため先代からの重臣たちが、他国との国交を凍結したのだ。

 彼らは紗也が成人し、自ら政治を行えるようになるまで、彼女を支えて国を維持する事で先代と誓約を交わしている。

 十八歳になった紗也が、はたして政治を行えるようになったかというと甚だ疑わしいところだが。

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