月下の誓約


 しかし、ここで振りほどいていきなり気まずくなるのもどうかと思い、腕は預けたままにした。

 そして、以前塔矢に言われた謎々の答えを改めて納得する。

 なるほど、恋愛対象だと思っていない女だと、触られてもドキドキしない。

 客観的に見れば佐矢子は充分に魅力的な女性だ。
 しかし和成の目には職場の同僚としか映っていない。
 女として認識はしているが、女として意識はしていないのだ。

 紗也の目から見れば自分も同じようなものなのだろう。
 そう思うと、忘れたい想いが頭をもたげて、和成の胸の内を切なくさせる。
 うっかりこぼれそうになったため息を、グッとこらえた。

 そんな事を考えている和成の心を知らない佐矢子は、とにかく嬉しそうにしている。
 笑顔で和成を見上げながら話しかけてきた。


「和成様も今日はいつもと雰囲気違いますよ」
「え? どこが違いますか?」


 佐矢子のようにめかし込んだりもしていないし、思い当たる事がないので和成は思わず聞き返す。

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