月下の誓約


「紗也様ってそういう方なんですか?」

「やるなと言う事をあえてやるような方です。傍若無人な程にわがままで私の言う事などちっとも聞いて下さいません」


 ため息交じりにこぼす和成に、佐矢子はおもしろそうに笑った。


「そう言えば、先日私が休みの日に会計情報を全消去したのは紗也様でしたよね」
「休みでよかったですね。復旧作業は真夜中までかかったんですよ」


 ふたりで顔を見合わせて笑った途端、和成の懐で電話が振動した。

 和成が電話を取り出し、佐矢子と共に覗き込む。
 塔矢からの返信だ。


”おまえの電話を追跡する。電源は切るな”

 ふたりとも飲み物は空になっている。
 和成は電話を懐にしまって立ち上がった。


「そろそろ行きますか」
「はい」


 佐矢子も微笑んで立ち上がり、飲み物の容器を店に返して、和成と一緒に歩き始めた。

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