月下の誓約

 9.月に見放された夜



「和成————っ!」


 悲鳴のような紗也の呼び声に驚いて、振り向いた和成は信じ難いものを目の当たりにした。

 ほんの数歩先まで走り寄ってきた紗也が、何かにぶつかったように目を見開いて急停止する。
 左胸から矢尻が突き出していた。

 和成と目があった紗也は、目を細めて微かに笑みを刻む。
 しかしその目はすぐに閉じられ、身体は力なくその場にくずおれた。


「紗也様!」


 和成は駆け寄って紗也を抱き起こす。
 胸から突き出た矢尻の周りに、みるみる赤い染みが広がっていった。

 紗也の背後に視線を向ける。
 少し開いた窓の向こうで忌々しそうに顔をゆがめて、立ち去る敵兵の姿が見えた。

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