月下の誓約


 和成は少しの間、刀を構えたままで敵兵の身体を見据えて立ち尽くす。
 やがて血流が途絶え絶命したことを認めると懐から手ぬぐいを出して刀を拭い鞘に収めた。

 人を斬ったのも返り血を浴びたのも、和成にとっては随分と久しぶりだった。
 腕に伝わる肉を断つ感触と血の匂いは、何度経験しても馴染めない。

 血の匂いがこびりついているような気がして、和成は何度もしつこく顔や腕を手ぬぐいで拭った。

 すでに乾き始めている血を完全に拭うことはできないし、着物に飛び散った血はどうにもならない。
 自分自身も不快だが、そんな血まみれの姿を紗也に見せるのは気が引けたので背中を向けたまま尋ねた。


「お怪我はございませんか?」


 紗也の返答はない。

 確かに箱入り君主には刺激が強すぎたかもしれない。
 怖くて声も出ないのか。

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