【続】隣の家の四兄弟

ガラリとベランダの戸が開いて、サンダルを脱いで部屋に戻ってきたのは聖二だ。

聖二、やっぱりいたんだ!


「セイジ?」
「あ? ああ。チーちゃんか」
「それ。コウにも今言ったけど、その呼び方変えてー」
「めんどくせぇな…」


深い溜め息ついて、聖二がチハルの前で立ち止まる。
そして正面にいる、キッチンの中の私と目があった。


うわー…。なんか、ドキドキする。
私、なんで未だに聖二には慣れないんだろう?

ジッと見つめられると、聖二しか感じられない。


まるで金縛りにでも掛けられてるように、私は指一本動かさずに聖二を見つめ返していた。

お互いに何かを言うわけでもない。
その空間に、チハルの声が割って入ってきた。


「セイジ、なんか変わったね!」
「……自分じゃわかんないけど」
「全然チガウよー」
「小学校あがるか、あがらないかくらいのときからなら、当然変わるだろ」
「mh…でも、コウはすぐわかったよ?」


チハルと聖二の会話を聞いて、思う。

昔の聖二って、どんなだったのかな。

今と違って可愛いかったのかな?
それとも泣き虫とか?

色々想像してみるけど、どれも今の聖二からはしっくりこないな。


「美佳ちゃん」
「ぅえ⁈ あ、はっはい!」


妄想途中に浩一さんの声が近くで聞こえて慌てて返事をする。


「あ、やっぱり聞いてなかった?」
「え? あ…あの、ごめんなさい…なんて?」
「ふふっ。ううん、いいよ。美佳ちゃんにサラダ担当してもらっていい?」
「えっ…」
「前に言った気がするけど、幸四郎と話したことあるんだよね。『美佳ちゃんのポテサラは母さんの味に似てる』って」


…そう言われたら、そんなこともあった気がする。
けど、あのときはなにも考えないでいつも通り作っただけだし…何より今日のポテサラは“特別”な気がして、プレッシャーだ。


「あ、ごめん。別に同じように作れなくてもいいんだ。おれが、美佳ちゃんのポテサラ久々に食べたい」


そっ、そんなこと、浩一さんに言われたら! 断れるはずないよ!


「…わかりました」


私が赤い顔して俯くと、浩一さんは優しい声で「ありがとう」と耳元で囁いた。



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