製菓男子。
藤波さんにとって「自分以外の“他人”は全て“強者”なのだろう」という印象を受けた。
その“強者”が少しでも話しかけると、地面にでもへばりつきそうなほどに“弱者”として恐縮している。
僕はミツキのように藤波さんを昔から知っているわけではないし、どのような経緯を経てこんな臆病でばかな犬のような生物になったのかわからないが、見ているとイラっとすることもある。


そんな藤波さんが、唇を噛みながら、ゆっくりと少年に近づいていく。


「あの、なにか、作りたいものが、ありますか?」


藤波さんから見ればこの小学生も“強者”なのだろう。
口調が普段どおりに消極的だ。


「―――チヅルちゃん」


ミツキはまるで初めて歩いた赤ちゃんを見守る母親のような、神々しい表情をしている。
藤波さん自らが初対面の“強者”に話しかけているせいだと思うが。
< 25 / 236 >

この作品をシェア

pagetop