あなたが教えてくれた世界
少しの時の後。
同じテーブルには、すっかり機嫌を良くした男と、最初の微笑みを崩さない青年の姿があった。
「……お話、受けて頂けると確信していた」
彼の言葉に、男は心持ち柔らかくなった視線と自らのグラスを向ける。
「そんな他人行儀な態度で無くても良い。ほら、もう一杯いかないのか?」
男の言葉に、青年は頷き返すそぶりを見せ──ふと、その目が店の入り口に縫い付けられたように止まった。
「……是非、と言いたいところだが、それはまたの機会でも構わないだろうか。急用を思い出してしまった」
不自然な間を挟んで、どこか慌てた様子で発した彼の言葉に、男は大して気分を害した様子もなく頷いた。
「そうか。なら仕方がない。やはりお前のような輩には予定が沢山あるのだろうしな」
「すまない」
軽く頭を下げると、彼はグラスの残りもそのままにおもむろに立ち上がる。
そのまま来たときと同じように喧騒の中へ紛れ込み──人波を縫って、一人の腕を掴んだ。
「……な!?おま……」
驚愕の声をあげた相手に構うことなく、ずんずん進んで外へ出ると、彼はようやく彼女を解放した。
「……何やってんのかな、こんなところで」
訛りのないいつもの口調でそう質問した彼──カルロは、目の前の相手に射るような視線を向ける。
「あそこがどういう所かわかってんの?女の子が一人でほいほいやって来てどうなるのか、想像もつかないわけ?」
いつになく荒い口調で言われたブレンダは、それよりも強い視線で睨み返す。
「お前に言われる筋合いはない。どうにか出来る自信があったから入ったのだし、それならどうしてお前はあんな場所にいたんだ」
「自信って……」
心底呆れたように息をついてから、彼は冷めた目でブレンダを見た。
「……ふうん。それじゃあ君、俺のことつけてたってわけ」
うってかわって冷たい口調を浴びせられるが、彼女は肯定も否定もせず、ただ答えを求めるようにカルロを見据える。
一太刀よりも鋭い二つの視線が、空中で真っ直ぐに絡み合う。