あなたが教えてくれた世界
「サンドイッチか。美味しそうだ。オリビアが作ったのかい?」
皿に盛り付けられた卵やハムなど何種類かのサンドイッチを見て、ハリスは目を細める。
「そう。宿の厨房を貸してくれてね。一昨日市場で買った残りで作ったから、大したものではないんだけど」
「アルディス様には?」
机に皿と、お茶の入ったカップを置き、正面に座ったオリビアに、ハリスはそう問いかけた。
「アルディス達の分も作ったわ。さっき三人分まとめて隣の部屋に持っていったとこ」
「……なるほど、それは確かに残り物だ」
冗談めかしてそんなことを言いながら、サンドイッチを一口つまんで「ん、美味しい」と感想をもらすハリス。
「そんなことないわよ。ハリスの昼食だからって手を抜いたりしないわ」
心外そうに少し唇を尖らせるオリビアを見て、ハリスは笑った。
「冗談だって。……ありがとう、嬉しいよ」
笑われたことに不服そうにしていたオリビアは、しばらく恨めしそうにハリスを見ていたが、やがて小さく頷き、自分も一つ口に運んだ。
「……あのねハリス。私、お礼をちゃんとしたくて来たの」
それから、少し姿勢を正して、彼女は真っ直ぐにハリスを見てそう切り出す。
「……お礼?なんの?」
きょとん、とするハリスに向かってオリビアは続ける。
「一昨日のこと。……取り乱しちゃった時、介抱してくれて……ベッドに寝せてくれたのもハリスでしょう?昨日、ちゃんとお礼が言えなかったから」
本当は昨日の朝言えたら良かったんだけど、と彼女は笑った。
オリビアは、朝起きるなり「アルディスがベッドにいないの!」と半泣きでハリスの部屋へ飛び込んだことを思い出す。
パニックに陥っていた彼女は結局そのままハリスになだめられ、そのままお礼を言う機会を逸していたのだ。
「……ああ、それくらい。お礼を言われるほどじゃないよ。僕にとって当たり前のことだから」
「……でも、すごく感謝しているから」
オリビアは、頭を下げた。
「ありがとう、ハリス」