夜桜と朧月
「違うよ。それだけは違う」



だけどお義兄さんの視線は、外すことなく真っ直ぐ私を捉えていて、身動ぎ一つ出来なくなる。



「あいつが死んで、放心状態で無為無臭だった俺の世界は、咲希や多希の笑顔で漸く色を取り戻してきた。咲希と多希を一生懸命見てくれたのは、真愛だ。だから、真愛がいなかったら、俺の世界は今でも真っ暗なままだった」



お義兄さんがガタン、と椅子から立ち上がり、私の背後に回った。



「真愛の笑顔と強さが、俺を支えてくれたんだ」



肩から胸にかけて回された、引き締まった腕。




「真愛、……キスしていい?」




お義兄さんさっきまでの泣きそうな影は、どこにもなかった。



「……でも、お姉ちゃんに……」


「申し訳ない?」



こくりと頷いて、肩を押す手に少し力を込める。



「じゃあさ、反対に、もし真名が不幸な目にあったとして、子供達や旦那の面倒を見るのが、知らない女だったら、許せる?」



あっ、それ卑怯な質問だなぁ!



「……絶対やだ……」


お義兄さんがくすくす笑う吐息が耳にかかって、くすぐったい。



「なら、自分の分身だったら……?」


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