夜桜と朧月
父は庭に出て、薫が抱っこしていた多希の寝顔を見てにこにこしていた。


「中に入ってちょっと待ってろ。今、客間に布団を敷いてくるから」


父はそう言い残して客間に消えた。その隙に薫に近寄り、つんつんと脇を突いた。


「……ね?私、何かした?」


そっぽを向いていた薫が、勢いよく振り返り、私の額にデコピンした。いっったい!!


「……なんで真っ先に咲希んとこ行く訳?俺じゃねーの?」


……え。

この人もしかして、一歳未満児に……?



「……やきもち……?」



またプイと反対の方を見て「悪いか!?」と、開き直りともとれる発言をしなさった。


「ごめんね?」と、また脇を小突いて顔を見上げたら、薫は耳まで赤くなっていた。

……なんか可愛い。けど、反撃とばかりに私の脇を擽り返された。

うお、咲希落っことすじゃん!!


「おーい、布団敷けたぞー」と、父が呼んだので、小突き合いを止めて客間に向かった。



客間に敷かれた布団の上に咲希と多希を寝せると、薫を仏壇の間に案内した。

薫は母にお参りした後、姉の位牌に向き直った。

暫くそこから動かなかったので、私はキッチンに行き、熱燗と瓶ビールを用意した。実は父はもう朝からちびりちびりと飲んでいて、いい感じに酔っていた。



かなり時間がたった後、薫が仏壇の間から居間に入ってきた。


「ささ薫君、飲んで飲んで。焼酎が良いか?」


父がにこにこしているのは、やはり孫が来てくれた嬉しさからだろう。


「すみません、ビールを頂きます」

「真愛、注いでやれ」


はいはい、言われなくてもやりますよ。


薫が傾けたグラスにビールを注いだ。私は自分用にジンジャーエールを。


「じゃあ、一つ今年もよろしく。薫君」

「こちらこそ、よろしくお願いします」



カチンと、杯を重ねて二人とも一気に飲み干した。お父さんてば熱燗を一気飲みして……。

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