夜桜と朧月
それから暫くして散歩から帰って来た父と双子達は何故かご機嫌で、しかも双子達の手にはしっかりお年玉のポチ袋が握られていて。


「酒屋さんに煙草買いに行ったら、可愛いねぇって言われて貰って来た」との事で。


双子達は赤いポチ袋が気に入ったのか、離したがらない様子。ちゃっかり者達め。




渋滞を避けるため早めに帰路に着く事にし、帰り支度を始めた時、多希を抱っこした父が薫に近寄った。


父は何かを伝えたげにしているのに、なかなか口を開かない。



何だろうかと、「お父さん、お義兄さんが困ってるよ?」と、助け船を出すと、意を固めたように父が喋った。



「薫君に、もしあいつ以外の『好い人』ができても……」


父は何を言い出すんだろう?





「……たまには忘れないで、ここにも子供達を連れて来てくれるか……?」



父は、薫がいつか再婚をして、子供達に会えなくなる事を心配しているんだろうか?




「毎年必ず来ますよ。絶対」


薫は、絶対と言いながら私を見た。



……本当にいいの?私、で。



にこりと頷いて父を見る薫の眼差しは優しくて、この先、来年も再来年もこの家に帰れる将来に思いを馳せ、私達は帰路についた――――。




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