夜桜と朧月
お正月以来、帰っていなかった我が家だが、此方の方はまた少し雪が降ったようで、路肩に雪が残っている。

天気も、此方はどんよりと曇り、いつまた雪が振りだしてもおかしくはないだろう。


「……ただい、ま…?」

「なんで疑問形なんだよ」



薫さん、突っ込み痛いです。


玄関先に仁王みたいに立っている父の視線も痛いです。


「よく来たな。ま、上がりなさい。………その前に、とりあえず抱っこさせてくれよ」



仁王様が如来様に変わった。



父の今日のお相手は咲希らしい。「さきー、さきー、さきちゃーん」とか言って、相変わらずジジ馬鹿全開。


私と楓は、「持って行って良い」と言われた雛人形の大きな箱を、車の後ろに積み込んだ。


家の中に入った父に会いに、私達も中に入る。


「おお、これな、昨日買ってきた」


語尾に♪が付きそうなほど浮かれて父が見せたのは、室内用の滑り台だった。



八畳の座敷の半分を占領している。


「高かったんじゃない?それにまだこれで遊べるほど大きくないし?」


呆れて父を見ると、父は嬉しそうに今度は多希を抱き上げた。


その膝元で、咲希が最近覚えた寝返りの技を披露している。



< 66 / 103 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop