夜桜と朧月
行きたい行きたいとは思っていたが、何しろ育児で忙しく、季節ものの洋服を見に行くなんてとんでもない。

会社勤めしてた時は、メイク道具も洋服も、人気がある物は結構揃えてたのにな。



久しぶりにそういう女の子っぽい事ができそうだったから、出掛ける前に頑張ってお洒落をした。


だけれども。


ロンTにVカットのカーデ、ジーンズの短パンに生足、ロングブーツ。 メイクはあくまでナチュラルに。髪の毛はトップで纏めて後れ毛を散らす。

よしまだイケる超イケる!!

いいんじゃない?私!



それを見た薫が一言―――。


「……着替えてこい」


えぇぇぇ!!何で!?私超頑張ったんですけど!!


でもまた薫の眉間に不機嫌そうな皺が寄るのを見たら、ぐうの音も出ず、すごすごといつものフツーのジーンズに着替えて、靴もフツーのスニーカーに履き替えた。


なんだか悔しい。


「子供達に何かあっても、あの格好じゃ碌に動けねぇだろーが」


そう言う薫の言うことは最もだと思う。でもね、その後「……ナマ足とか人前でナシだろ……」って聞こえたのは気のせいじゃないよね、多分。

そんなに私の格好、イケてなかったのかな!?悲しくなるんですけど!




半泣きで助手席に乗り込み、黙って揺られる事15分あまり。


流石に「ナシだろ」などと言われて良い気分はしない。剥れたくなるのは私の方だ。

窓に視線を合わせて、薫の方を見ようともしなかった。


薫がチラチラとこっちの様子を窺っていたのは気づいたが、私はそれを全部無視した。


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