夜桜と朧月
変わっていくアイツに追い付こうと、浮気などするより、自分を磨く事に決めた。

真愛と一緒に歩くために、確かな将来を決めようと。



語学留学を決めたのは遊学するためではない。


通関士になろうと思った。



遠くイギリスで生活しながら、独学で関税法や関税定率法、外国貿易法等を学んだ。



新卒でも安定した収入を得て、一緒に暮らしたい。擦れ違い、合わなくなってしまったお互いの気持ちを、もう一度繋ぎ合わせたいと願った。



バイト代は殆ど留学の費用に充てたが、どうしても欲しいものがあって、それだけは留学する前に買ってしまった。



お互いの、誕生石が填まったペアの指輪。



俺の指輪には、真愛の誕生石のダイヤが。

真愛の指輪には、俺の誕生石のルビーが。



クリスマスに着くように、真愛の指輪だけイギリスから送った。





それから10日ほど経ったある日、アカから電話がきた。アカは藤崎と結婚すると言っていて、幸せの只中だろうに……、珍しく歯切れが悪い。


何か言いたげなのに、言い出せない。そんな感じ。


「式の日取りとか決まったの?」

当たり障りの無い会話から切り崩してみる。

『あ…、一応……。てかさ』

「何?」

『こないだ、旧友会に椿が来た』


ハッと、息を飲んだ。

『……それから今日も偶然水族館で会ったんだけど』

「……だけど?」

『………お前、覚悟はしてた方が、良い』

「……覚悟って、何の?」



――聞かなくても、分かる。――



真愛が、俺から離れていく。

そりゃそうだろ?

あんだけの事を俺はしたんだから。



でもただ、帰ったら。


お前に、会いたいだけなんだ……――― 。
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