夜桜と朧月
「お前はちょっと見ない間にすぐ変わっていくから、覚えておきたいんだよ」

愛しげに髪や頬を伝う指は、あの頃より骨ばっている。



そう。

彼も、時と共に変わっていくのだ。

生きていればこそ肉も心も変わっていく。だから。共に居られない事を知る時、人は切なくなる。身を切られるように。




だが、体が塵芥と果ててしまえば、遺された者は深い喪失を心に負う。



心に、穴が開くのだ。



薫の心に開いた穴は、未だに塞がる事はない。


【其れ】だからこそ。






私は、薫を選ぶ。


薫を取り巻く私達。



その世界が、愛情で構築されていればいい。






そして、楓のこれから先の世界で、彼の為に【其れ】を構築してくれる、誰かに出逢えればばいいと、切に願う。
< 99 / 103 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop