おうちにかえろう

雨と涙







「会社に財布忘れるとかアホか」


「大丈夫、同期のやつがちゃんと保管してくれてるらしーから」


「そういう意味じゃねーよ。いっそ濡れて帰って来いよ」


「水も滴るイイ男になっちゃうだろ」


「あ~~~…うぜぇ…」


「うぜぇとか言うなよ傷つくから」




久しぶりの大雨に打たれて、ビニール傘がバタバタと音を上げている。



正直、若干声を張らないと朔兄の声も聞こえない。



それくらい、ひどい雨だ。



そんな雨の中、会社に財布を忘れたらしい馬鹿兄貴から連絡があった。



傘を持って、駅まで迎えに来てほしいと。



ふざけんな馬鹿じゃねーの行くわけねーだろいい大人が自分でどーにかしろって思いながらも行ってしまう俺は、



結局、ブラコンなのだろうか。





「小銭くらいどっかに忍ばせとけよ」


「俺もいくらか持ってんじゃねーかなと思ってカバンのポケット探してみたら20円は入ってたんだけど…」


「20円て…っつーかパスモとかで買えたんじゃねーの?」


「……。……あら」


「………ふざけんなよ……それくらい自力で思い付けよ……」



わざと馬鹿でかい溜息を繰り出してやると、朔兄は「しょうがねーだろ昭和の人間なんだから」と開き直ってきやがった。


どうしてこいつはいつも、こんなにも偉そうなんだろう。




「やべぇ、財布忘れた!!傘買えねぇ!!…いいや、望に電話して迎えに来てもらおうっていう自然な流れが俺ん中で出来てた」


「しらねーよそんなこと」





その想いの代わりに、もう一発馬鹿でかい溜息を繰り出してやった。


















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