奪取―[Berry's版]
「今、何時?」
「6時。喜多はまだ寝てても大丈夫な時間でしょう?ごめんなさいね、注意はしていたんだけれど。手を滑らせてしまって」

 喜多が覚醒したきっかけは、女性が化粧ポーチを落とした音のようだ。片手を伸ばし床に散らばる道具を集めて終えた彼女は、既に身なりを整え終えている。昨夜の情事を色濃く残しているのは、自分だけなのだと感じ、喜多は思わず肩を竦めた。床に脱ぎ捨てられているバスローブに手を伸ばし、素早く身に纏ってから。喜多はベッドから這い出た。
 腰まで真っ直ぐに伸びた長く淡い蜂蜜色の髪。魅力ある項が隠されてしまっていることを残念に思いながら。喜多は鏡と未だ向かい合う女性に、後ろから腕を伸ばし閉じ込める。
< 101 / 253 >

この作品をシェア

pagetop