奪取―[Berry's版]
 招待客をもてなす食事の数々に、細かな気配りを見せるスタッフ。色を添える花束。光沢のある高級感漂うスーツを身に纏った男性達。そして、熱帯魚のように着飾った女性達が動き回る中、絹江は入り口付近の壁に身体を預け立っていた。

 去り際、絹江へ投げかけられた喜多の言葉。緊迫感漂う言葉に、絹江は答えることが出来なかった。いや、答える余裕がなかったと表現したほうが正しいだろう。
 エレベータの中で、予想外にも喜多と会ってしまった瞬間から。絹江は眩暈を起こしそうなほどの混乱に襲われていた。あまりにも突然のことで、思わず喜多から視線を逸らしてしまうほどに。動揺していたのだ。
 全身が、心臓になったかのように大きく鳴り渡る拍動。真っ白になった思考では「どうして?」の4文字が激しく踊っていた。
< 223 / 253 >

この作品をシェア

pagetop