奪取―[Berry's版]
「おはよう、どう?調子は。もしかして、まだ残ってる?」
「……喜多くん。おはようって気分じゃないんだけれど、頭が痛くて……私、どうしてここに?ここは喜多くんのお宅?」
「うっわ。俺の予想通り。やっぱり覚えてないな、きぬちゃん」

 足を組んだ上に、掌を重ねて。喜多は苦笑を浮かべた。喜多の言葉が意図するところが分からず、絹江は首をかしげたが。その視界の隅で、壁にかけられている一枚の着物の存在に気付く。よくよく眸を凝らし眺めれば、それは覚えのある白大島で。眸をぐるりと一度回してから、絹江は恐る恐る自分の姿を見下ろした。
 見る間もなく。火がついたように、羞恥心から絹江の肌が熱を帯び、紅く染まってゆく。慌てふためき、沈んでいた布団を肩から羽織る。

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