奪取―[Berry's版]
 仮紐か……と呟きながら。少しの間思案していた喜多は、室内の壁一面を占める大きなクローゼットを開いた。僅かな隙間から、綺麗に整頓されたスーツが顔を覗かせる。喜多の性格の見える様に、絹江は思わず口元を緩めていた。
 数分後。振り返った喜多が手にしていたのは、一本のネクタイだった。

「これ、使って」
「え、でも。仮紐とは言っても、きつく縛るのよ。ネクタイに皺が出来ちゃう……」
「ネクタイは縛るものだから大丈夫だよ。それに、仮紐で使うなら、短時間でしょう」

 依然、渋る絹江に。喜多は押し付ける形でネクタイを手渡し、足早に傍を離れてしまう。手にしたネクタイを眺めつつ。絹江は諦めのため息を零してから、ベッドから這い出たのだった。

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