奪取―[Berry's版]
 先日。初めて喜多の部屋で目を覚ました日。その窓から見える景色に、絹江は酷く驚いた。遮るものなどほとんどなく、あまりにも見通しの良い風景に。自宅のある階数を喜多の口から聞き、絹江はそれならば……と納得したのだった。

 彼と交友のあった大学時代に、絹江は喜多から聞かされていたことを思い出していた。喜多の父方の実家が、手広く事業を展開しており、ある程度財力のある家だと話していたことを。本家の次男である喜多の父親は、その事業に関わることを嫌い、着物に携わる道を選んだのだと。実家は、伯父である長男が継ぎ安泰だとも言っていた。
 しかし。喜多は経営学に興味があるようだった。将来は、どのような形かは分からないが。会社経営に関わる道を選びたいと。当時の喜多は、言葉少なく語っていた。

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