病原侵食
その夜から、二人の秘密の会瀬が始まった。


最初の頃は居酒屋やバーで、他愛もない仕事の話をお酒の肴にただ語り合っているだけだと思っていたのは私だけだったようだ。


だが、こうして私と過ごす時間を彼は本気で楽しんでいる様子だということは、それから暫く経ってから気付いた。


――そんなに家に帰りたくないの?

――奥さんも子供も待つ家に帰りたくないぐらい、あなたの家庭は冷めているの?




……それなら……。



誘ったのは、どちらが先とも言えない状況だったと思う。


その日は、半ば計算付くで賭けに出た私。


飲み過ぎを装って彼に撓垂れかかり、「……帰りたくないの……」耳元でそう囁いた。



彼は少しだけ躊躇して、私の腰を引き寄せる。


「……飲み過ぎだろ?気分が良くなるまで、少し休もう」



そして近場のホテルへと連れて行かれ、部屋にはいるなりどちらからともなくお互いの唇を貪りあう。



彼は激しく私を求めた。


奥さんの替わりなどではない、彼は私自身を求めてくれたのだ。嬉しくない訳がない。


彼の心の中に居るのが、奥さんでも家庭でもない、私だということに。


……私は、賭けに勝ったのだと単純に喜んだ。

彼は奥さんより家庭より、私を選んでくれるだろうと、信じて疑わなかった。



何より、それだけでこの時はまだ幸せだったのに。


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