あの頃…
人手が足りないんだ

電話口から聞こえてきた低い声に、心のどこかでああ、やっぱりとつぶやいた自分が居た

「……黒崎先生、私、そこまで暇じゃないですよ」

ああ、期待した自分がばかだった

一瞬でも甘い展開を期待した自分が

「空いてるんだろう。元指導医命令だ」

いったいいつまで元指導医は権限を持つのか

「……じゃあ、飛び切りおいしいケーキおごってください。ホールで」

18センチくらい欲しいかな

「知らないぞ。ここら辺のケーキ屋なんて」

「じゃあ、お金出すだけでいいですよ。自分で買いにいくんで」

いいながらなんてかわいげのない発言だろうと思う

せめてじゃあ次の日一緒に、なんて言えたらかわいげがあるというのに

「ちなみに黒崎先生、今月何月か知ってますか」

「師走。特に年末は忘年会で救急患者が増える」

急性アルコール中毒やら路上で転んだとか

時々殴ってやろうか、なんて思っているのは秘密だ

「じゃあ、その師走の24日って何の日かご存知ですか」
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