あの頃…
ああ、やっぱり遠い背中なのかもしれない

「私ケーキにはうるさいんで、当日はお財布を潤してきてくださいね」

気を取り直してそう言えば、

「カードでいいか」

と返ってくる

ああ、こういう時とても育ちの違いを感じる

きっとどこぞのプラチナカードとか出てくるんだ

心しておこう、と思い浮かべるのはお高めのクレジットカードたち

あれが出てきても決して驚きはしない、そう心に誓う

「いいですよ、カードで。制限がないならなおのことたかりますから」

乙女の純情を裏切ったことを差し引いてもケーキひとつで済むのだから安いものだと思ってほしい

「心しておく」

「そうしてください。じゃあ、失礼します」

「ああ」

そう言って切れる電話

何の未練もなく切れるそれ

それが少し寂しい

ああ、なんであんなのに落ちたんだろう

ふと息をつくが、それと同時に久々に逢えると喜んでいる自分が居る

こんな自分が一番どうしようもない

そう思いながら医局のドアを開けた

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