あの頃…
「黒崎先生」

打ちあがる花火が二人を照らしていく

「ありがとうございます」

いちばん言葉にしたいのは、この言葉じゃない

でも、それを伝えるにはまだ早いんだ

「まあ、突然来てもらったしな」

嬉しそうに笑うしるふとの距離はあと一ミリ

でも、それを詰めるのは、今じゃない

今はまだこうしてあと少しの距離を続けていこう

沈黙は花火が消してくれる

そうしてどれくらいそうしていただろう

ふと柵に乗せた手にひんやりとしたものを感じて視線を投げる

「……雪」

手の甲に乗って一瞬で消えていく白い塊

その瞬間だけ感じる冷たさ

真っ黒な夜空を見上げればゆっくりと静かに落ちてくる白い影

「そういえば降るって言ってましたね」

ホワイトクリスマスだ

嬉しそうに笑うしるふ横目に

「さすがに戻るぞ、立花」

そっと肩をすくめる

ああ、寒い

と口の中だけでつぶやく

「はーい」

屋上のドアを開けて消えていく二つの背中を、音もなく降る雪が見送っていた
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