あの頃…
こんなことなら他の男との間で揺れてみるべきだったか

そしたら少しは焦ってこの手を握ってくれたのだろうか

結局、黒崎先生のもとに行くんでしょ

そんな莉彩の声が聞こえてきそうで、一人瞳を細める

わかっている、そんなこと

わかっているから、こんなに悔しい

「そういえばあの時まるで宣戦布告のように俺を超えるとか言ってたけど」

あれはどうなった

「…あれは、現在進行形と言いますか」

広がることはない距離は、詰まることもないような気がしてならない

「いいの!いつか絶対に超えてみせるんだから」

その時のために海斗が医者で居続けてくれる

それだけでいい

「立花が速く追いついてくれないとずっと医者でいなきゃいけない」

「あ、そんなこと言うとね。ずっと追いつかないから」

追いつきそうになったら立ち止まって海斗の背を眺めていよう

それかずっと隣を歩き続けよう

同じものを見て

同じものを乗り越えて

同じときに立ち止まって
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