あの頃…
「そろそろ立花先生助けに行ったらどうですか」

大切な姫君がお困りですよ

その言葉に心底面倒くさそうな顔を向けながらも莉彩の横から離れていく

その背を見送って莉彩はそっと踵を返した

背後で「人の女に手出さないでくれますか」という少し怒気をはらんだ声を

「ちょっと!海斗!!」と思わず下の名前を口にしてしまったしるふの声を聞きながら

そっと見上げた天井は真っ白で

それはERの花を思い出させる

決して汚されることのない花

それを心底嫌っているのが、この黒崎病院の跡取り息子である限り

そしてその二人の「これから」を願うものがいる限り

決してあの花に手を触れることなんて出来ない

あまつさえ近づくことなんて

「黒崎先生も大変だなー」

きっと海斗の憂鬱がなくなることなんてない

ああ、でもそんなに心配ならさっさと黒崎姓にしちゃえばいいのに

なんて思ったことは海斗にもしるふにも内緒だ









黒崎海斗の憂鬱      -完―
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