あの頃…
「立花」

「…はい」

少し近くなった背が一瞬振り向く

「止めはしないから、次からは止まれよ」

「…止め、ないんですか」

外された視線、漆黒の瞳は静かで思わず見入ってしまう

「止まらないだろう、立花は」

困るほどまっすぐで手におえないのはわかってしまっている

「忘れるな、これでも指導医だ」

もう一度、たった一瞬漆黒の瞳が向けられる

「黒崎先生。…って、置いてかないでください!!」

そしてもう少しゆっくり歩いてください!!

少し気を抜くと遠ざかる大きな背

手を伸ばしたって届かない

まだ

でも絶対いつか

その背に追いついてみせる

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