あの頃…
「鬼ー。だから変な女の人に言い寄られたりするんですよー」

一言余計だ、そう思ったのは一瞬

ため息とともに振り上げたのは右手にあるカルテ

良い音を立てるのは、標的・立花しるふ、の後頭部

「いったー!!何するんですか!黒崎先生!!」

人が気持ちよく寝ようとしてるのに!!

思わず涙目で見上げるのは、漆黒の瞳

「邪魔だと言ってるだろう、研修医が」

「研修医は関係ありません!!というか、パワハラですよ!!セクハラですよ!!」

訴えますよ!!

「目が覚めたのならカルテの整理でもしとけ、研修医」

問答無用、しるふの腕に数冊のカルテを置いて去っていく

「研修医連呼するなー!!」

ついでに言うと人の安眠邪魔するなー!!

叫んだってあの背が止まることも振り返ることもないのはここ数週間でよく学んだ

その虚しさも振り切ってしまえば何も気にならない

「今に見てなさいよ、あの現代の鬼」

いつか、絶対に越えてやるんだから

堅く心に誓うのは早何回目

「カルテの整理は後でいいから仮眠とってきたら?」

笑い声とともに背後から声をかけるのは、神宮寺晶医局長

医院長と同期の凄腕女医
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