あの頃…

笑顔でそんなことを言ってしまえるのは、海斗を昔から知る塔矢だからだと思う

「昔からすごかったんですか」

求婚とか求婚とか

しるふは一度しか目にしたことがないけれど

莉彩曰く、「噂はたくさんあるわよー。製薬会社のご令嬢でしょ、医療機器メーカーのご令嬢、あとは普通にどっかのご令嬢とか」

そりゃ上げればきりがないほど

「ま、全部一方通行らしいけどね」

これが一番慎重性のある噂だと莉彩は言っていた

「黒崎が黒崎病院に転院してからしか知らないけど、まあ、日常茶飯事かな」

特に医院長が渡米してからはなおのこと

「その度にあいつの中で諦めが増えていくことなんて彼らは考えもしないんだよ」

困ったもんだね

「立花先生」

苦笑する塔矢相手にこの間の海斗を思いだしていると

「佐藤先生」

同じく研修医の佐藤が声をかけてきた

「外来、そろそろ時間だよ」

さわやか系の雰囲気を醸し出す佐藤が指差すのは診察室